宅建の名義貸しは違法?罰則やバレた時の賠償リスクまで解説
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宅建業界では「宅建の名義貸し」が話題になることがあります。
宅建の名義貸しとは、宅建業免許の名義や宅建士の名義を貸し出すことを言います。
背景には、宅建の名義を借りたい業者や貸したい人が存在するという事情があります。
宅建の名義貸しは違法です。しかし「名義を貸すだけで簡単にお金がもらえる」とか「違法だけど、バレないから大丈夫」といった話もあります。はたして本当なのでしょうか。
そこで今回は、宅建の名義貸しをテーマに、その内容や違法である理由、罰則や賠償リスク、業者や個人が名義貸しに手を出してしまう理由などを解説します。
宅建の名義貸しは絶対にやってはいけないことです。その実態を調査してみました。
- 「宅建の名義貸し」とは何か?
- 「宅建の名義貸し」が違法である理由は?
- 「宅建の名義貸し」の罰則は?
- 「宅建の名義貸し」はバレない?罰則や賠償のリスクも!
- 「宅建の名義貸し」に手を染めてしまう理由は?
目次
1.「宅建の名義貸し」とは何か?
宅建の名義貸しには2つの種類があります。
1つ目は「宅地建物取引業免許」の名義貸しで、もう1つは「宅地建物取引士」の名義貸しです。まずはその内容から見ていくことにしましょう。
名義を貸した結果、もし相手が宅建業の営業活動を行わなかったとしても、宅建業を営んでいる旨の表示や広告をするだけで処罰の対象になります。
名義貸しが起きることがないよう注意してください。
1-1.「宅地建物取引業免許」の名義貸し【業者と業者の関係】
1つ目の名義貸しは「宅地建物取引業免許」です。
宅建業の免許を別の事業者や個人事業者に貸し出して、不動産業を営ませるというパターンが該当します。
たとえば、宅建業を営んでいない事業者のもとに、不動産仲介で儲かりそうな案件がたまたま舞い込んできたとします。
しかし宅建業を開業するには時間がかかります。そこで、「宅建業免許の名義を借りよう」と考える業者があらわれます。
また、宅建業者が名義を借りようとするケースもあります。
たとえば宅建業免許の有効期限が切れてしまった場合や、何らかの処分を受けて欠格要件をかかえたために、営業を継続できなくなった場合が考えられます。
いずれにおいても、宅建の名義貸しは禁止されています。
1-2.「宅地建物取引士」の名義貸し【宅建士個人と業者関係】
2つ目の名義貸しは「宅地建物取引士」です。
その不動産業者で働いているわけではないのに名義を貸すことによって社員として働いているよう見せかけるというパターンや、非常勤で働いているのに「専任の宅建士」(常勤)として登録するといったパターンです。
宅建業法では、事務所の5人に1人以上は「専任の宅建士」を配置しなければいけないと規定されています。
人数が不足してしまった場合などで、名義貸しの需要が生まれるケースがあります。しかしこの場合も、宅建の名義貸しは禁止です。
2.「宅建の名義貸し」が違法である理由は?
宅建の名義貸しには2種類あり、1つ「宅地建物取引業免許」で、もう1つは「宅地建物取引士」です。
いずれも禁じられていることですが、違法とされている理由を知るために、宅建業法の条文を見てみることにしましょう。
2-1.「宅建業免許」の名義貸しの場合(宅建業法13条)
まずは1つ目の「宅地建物取引業免許」の名義貸しのケースです。「名義を貸す側」と「名義を借りる側」に分けて見てみます。
2-1-1.名義を貸す側についての規定
「名義を貸す側」については宅建業法の第13条で「名義貸しの禁止」として規定されています。
(名義貸しの禁止)
- 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
- 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に、宅地建物取引業を営む旨の表示をさせ、又は宅地建物取引業を営む目的をもつてする広告をさせてはならない。
「名義を貸して、宅建業を営業させること」を禁じるだけでなく、「名義を貸して、宅建業を営んでいる旨の表示や広告をさせること」も禁じるとの内容です。
2-1-2.名義を借りる側についての規定
また、上記は「名義を貸す側」の規定ですが、「名義を借りる側」についても規定されています。宅建業法の第12条です。
- 何人も、宅地建物取引業免許を受けないで、宅地建物取引業を営んではならず、また宅建業を営む旨の表示をし、又は宅地建物取引業を営む目的をもって広告をしてはならない。
双方に共通していることは、「営業すること」だけでなく「表示や広告をすること」についても厳格に禁じられているという点です。
2-2.「宅地建物取引士」の名義貸し場合(宅建業法68条)
次に、2つ目である「宅地建物取引士」の名義貸しのケースを見てみましょう。
2-2-1.「専任の宅地建物取引士」としての名義貸し
まずは「専任の宅地建物取引士」としての名義貸しです。宅建業法の第68条で「宅地建物取引士としてすべき事務の禁止等」として規定されています。
(宅地建物取引士としてすべき事務の禁止等)
- 宅地建物取引業者に自己が専任の宅地建物取引士として従事している事務所以外の事務所の専任の宅地建物取引士である旨の表示をすることを許し、当該宅地建物取引業者がその旨の表示をしたとき。
これは「専任の宅地建物取引士」としての名義貸しのことを指しています。前述の通り、宅建業法では事務所の5人に1人以上は「専任の宅建士」でなければいけないとしています。「そのルールを満たす目的で、自分の名義を貸し出す」というのが、このケースです。
2-2-2.「宅地建物取引士」としての名義貸し
続いては、「宅地建物取引士」としての名義貸しです。同じく宅建業法の第68条で規定されています。
- 他人に自己の名義の使用を許し、当該他人がその名義を使用して宅地建物取引士である旨の表示をしたとき。
宅建士には以下3つの法定業務が認められています。
- 重要事項説明
- 重要事項説明書(35条書面)の記名と押印
- 契約書(37条書面)の記名と押印
不動産取引の中で上記3つの行為を行うことができるのは宅建士のみです。
「宅建士でないスタッフが、名義を借りて宅建士を装うことで上記業務を行う」というのが、このケースです。
もし判明した場合、都道府県知事はその宅建士に対して必要な「指示」を行うことができるとしています。
ここに紹介した「専任の宅地建物取引士」としての名義貸しにおいても、また「宅地建物取引士」としての名義貸しにおいても同様です。
3.「宅建の名義貸し」の罰則は?
繰り返しになりますが「宅建の名義貸し」は厳しく禁じられているルールです。
「名義を貸した側」だけでなく「名義を借りた側」にも罰則があります。
厳密には、名義を借りただけでは罪にはなりません。
しかし宅建業の営業活動をしなかったとしても、広告をしたり表示をしたりしただけで罪に問われます。
ここでは名義貸しの罰則について、詳しく確認してみることにしましょう。
3-1.名義を貸した側の罰則(宅建業法13条)
まずは「名義を貸した側」の罰則です。行政庁から指示を行う「監督処分」と、違反行為に対するペナルティである「罰則」に分けて説明します。
3-1-1.監督処分
まず宅建業者に対して
は、宅建業法第13条の「名義貸しの禁止」に抵触するものとして、「業務停止処分」が行われます。
宅建業者に対する監督処分は「指示処分 → 業務停止処分 → 免許取消処分」という順に重くなりますが、その中間段階になります。
(名義貸しの禁止)
- 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
- 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に、宅地建物取引業を営む旨の表示をさせ、又は宅地建物取引業を営む目的をもつてする広告をさせてはならない。
業務停止処分になると、1年以内の期間について、業務の全部または一部が停止となります。
もし「全部の停止」なら、営業活動だけでなく広告活動もできないことになります。
また免許の「欠格要件」に該当してしまうため、取り消しの日から5年間は免許を受けることができなくなります。
続いて宅建士に対して
は、「指示処分 → 事務禁止処分 → 登録消除処分」という順に重くなりますが、状況によっていずれかの処分が行われます。
「事務禁止処分」になると、1年以内の期間について、宅建士としてすべき事務活動が禁止になります。
この場合、すみやかに宅建士証を知事に提出することが求められます。
情状がとくに重い時は「登録消除処分」になります。この処分は、「宅建士」だけでなく、宅建士登録をしていない「宅建士資格者」も対象になります。
この場合、すみやかに宅建士証を知事に返納することが求められます。
なお登録消除になった場合は「欠格要件」に該当し、処分の日から5年間は新たに免許を受けることができなくなります。
3-1-2.罰則
名義貸しの罰則は、宅建業法79条に定められています。
「第十三条第一項(名義貸しの禁止)の規定に違反して他人に宅地建物取引業を営ませた者」ということで、「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科」となります。
また個人と法人の両罰規定の対象となるため、行為をした個人だけでなく事業者にも罰金刑を科されます。
3-2.名義を借りた側の罰則(宅建業法12条)
続いては「名義を借りて活動した側」の罰則です。宅建業法の第12条に規定があります。
(無免許事業等の禁止)
- 第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
- 第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営む旨の表示をし、又は宅地建物取引業を営む目的をもつて、広告をしてはならない。
まず無免許で宅建業を営んだ場合は、上記の第1項に該当します。
この場合「3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または両者の併科)」という罰則になります。これも両罰規定の対象となります。
また営業活動をしていなくても、宅建業を営む旨の表示や広告をした場合は、上記の第2項に該当します。この場合、100万円以下の罰金となります。
4.「宅建の名義貸し」はバレない?
ここまで説明してきたとおり「宅建の名義貸し」は違法です。
罰則もあるため、もし今後も宅建業に従事したいなら大きな支障にもなりかねません。
しかし「宅建の名義貸しはバレないよ」という声を耳にすることもあります。これは本当なのでしょうか。
4-1.「宅建の名義貸し」がバレるきっかけ
宅建の名義貸しがバレるケースは多くないと言われています。
しかし名義貸しがバレる場合のきっかけは、多くの場合「業者からの通報」によるものが多いようです。
しかし、たとえ名義貸しがバレにくいものだとしても、犯罪であることに間違いはありません。
宅建資格をとると「名義を貸してくれないか?」との誘いがあるかもしれませんが、しっかり断ることが大切です。
4-2.詐欺に加担する結果となり損害賠償責任を負わされる事例も
さらに大きなデメリットは、損害賠償のリスクがあることです。
たとえば不動産業者に宅建の名義貸しをして、その会社が不正な売買取引に加担したとします。その売買契約書に、あなたの記名・押印がされていたらどうなるでしょうか。
調べてみると、最近の事例でも名義貸しに関する損害賠償訴訟の判例がいくつか見つかりました。たとえばこの3件は、いずれも損害賠償責任が認められた事例です。
- 秋田地裁 平成29年9月22日判決
- 東京高裁 平成30年1月9日判決
- 東京地裁 平成30年3月28日判決
貸した側の本人は「専任の宅建士」として名義を貸しただけです。
それ以外に何か問題のある行動をしたというわけではありません。
しかし問題のある取引に関わったことで、責任者として賠償をしなければいけなくなったケースです。
中には、詐欺取引の契約書に記名押印をしたことから、詐欺行為の幇助をしたとして「共同不法行為責任」が問われた事例もあります。
「名義貸しはバレにくい」との声もあります。
しかし立派な犯罪です。賠償リスクも含めて考えれば、途方もなく大きな危険性のある犯罪であることがわかるのではないでしょうか。
※参照「最近の判例から [宅建士の名義貸し責任 ] – 有限会社不動産リサーチ」
※参照「最近の判例から ⑺−宅建士の名義貸し責任−(不動産適正取引推進機構 RETIO. NO.114 2019 年夏号)」
5.「宅建の名義貸し」に手を染めてしまう理由は?
最後に、なぜ違法であるはずの「名義貸し」に手を染めてしまうのか、その背景を解説します。ここでは次の3つのケースを紹介します。
- 名義を借りたい宅建業者のケース
- 名義を借りたい一般事業者のケース
- 名義を貸したい宅建士個人のケース
不動産業界に関わりたいなら名義貸しの背景を知っておくことは重要です。
どんな背景があるかを知っていれば、今後もし業者から「名義を借りたい」と言われた時でも、「名義貸し」以外の適切なアドバイスができるようになるでしょう。
5-1.名義を借りたい宅建業者のケース
まずは、名義を借りたい宅建業者のケースです。
前述の通り、宅建業者には事務所1ヶ所につき5人に1人以上の専任の宅建士が必要です。
これを「必置義務」といいます。もし退職や転職などで「専任の宅建士」が不足した場合は、2週間以内に補充をしなければなりません。
しかし、必ずしも迅速に採用して補充することが困難な場合もあるでしょう。また金銭的な事情から専任の宅建士が雇用できないという状況もありえます。
そうした時「手っ取り早く、専任の宅建士が欲しい」という事情から、名義を借りるという考えが出てくるようです。
また、免許の有効期限切れを迎えてしまった業者、何らかの処分で欠格要件を抱えてしまい、不動産業を継続できなくなった業者も「名義貸し」を検討するところがあります。
さらに、仲介業務で多忙な会社の場合も、名義貸しを模索するケースがあります。
不動産取引の仲介業務にあたっては、重要事項説明書(35条書面)の記名・押印や、契約書(37条書面)の記名・押印など、宅建士でなければできない独占業務があります。
もし名義を借りることができれば「宅建士資格をもたない一般社員が、宅建士を装って契約に立ち会う」ということができてしまいます。もちろん違法ですが、そういうことを考える業者もあるということです。
5-2.名義を借りたい一般事業者のケース
続いては、不動産業を営んでいない会社の場合です。不動産業に近い業種の会社の場合、お客様とのやり取りから「不動産売買の仲介案件」が話に出てくることもあります。
もちろん宅建業免許をもっていなければ不動産の仲介はできません。多くの場合は知り合いの宅建業者に「お客様紹介」をするという方法をとるでしょう。しかし、もしその一回の取引で膨大な利益が見込めるとしたら、自社で仲介をしたいと考える会社もあるはずです。
そうした時に「名義を借りることで利益を独り占めできないか」と画策したくなる事業者があるようです。
5-3.名義を貸したい宅建士個人のケース
最後に紹介するのは、宅建士登録を済ませた個人のケースです。
宅建試験に合格して宅建士登録をしたものの、宅建業以外の仕事に従事しているという人はたくさんいます。
せっかく資格を取得したのに、宝の持ち腐れ状態になっていると考えて、「名義を貸すだけでお金がもらえるなら、ぜひ貸したい」と思う人もいるようです。
いわば「副業」感覚の安易な気持ちからくるものなのでしょう。
しかし名義貸しは違法です。罰則だけでなく損害賠償リスクもあります。どんな事情があったとしても「宅建の名義貸し」は避けなくてはなりません。
6.「宅建の名義貸し」まとめ
宅建の名義貸しについて解説しました。名義貸しは違法です。
本記事は「名義貸し」を推奨するものではありません。しかし、その内容と実態、背景をおさえておくことは大切です。
「バレないから大丈夫」との声もありますが、違法である理由、罰則や賠償リスク、業者や個人が名義貸しに手を出してしまう理由などをふまえれば、いかに危険なものか、おわかりいただけるのではないでしょうか。
名義を借りたいという業者もあります。名義を貸したい個人もいます。
しかし「名義貸し」は回避しなければなりません。業界の健全化のためにも、ぜひ心に留めておきましょう。
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※参照「最近の判例から [宅建士の名義貸し責任 ] – 有限会社不動産リサーチ」
※参照「最近の判例から ⑺−宅建士の名義貸し責任−(不動産適正取引推進機構 RETIO. NO.114 2019 年夏号)」
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